発達特性を「困りごと」ではなく「ちがい」として理解するには?
「困りごと」ではなく「ちがい」として発達特性を理解することは、子どもの自己肯定感を守り、学びや関係づくりを前に進めるための土台です。
ここでは、その考え方の軸と具体的な関わり、さらに根拠となる理論や研究をまとめてお伝えします。
視点の転換 不足モデルから多様性モデルへ
– 不足モデル(医療モデル)は、個人の「できない」に焦点を当てて改善や矯正をめざします。
これに対し、社会モデル/神経多様性の視点は「人の違いは自然なばらつき」であり、困難の多くは人と環境の不一致から生まれると捉えます。
– WHOの国際生活機能分類(ICF)は、機能・活動・参加と環境要因の相互作用を見る枠組みで、「環境を調整すれば参加が広がる」ことを前提にしています。
– 神経多様性の概念(Judy Singer)は、発達特性(自閉スペクトラム、ADHD、SLD、DCDなど)を病理ではなく認知スタイルの違いとして尊重する立場です。
「ちがい」と見ることの利点
– 自尊感情と学習意欲の保護 特性を価値ある個性として言語化し、強みとセットで理解すると、自己否定やマスキング(過度の擬態)の負担が減ります。
マスキングは不安・抑うつや燃え尽きと関連する報告があります。
– 実用的な支援が選べる 課題の原因を「能力不足」ではなく「ミスマッチ」と捉えると、環境調整や伝え方の工夫など具体的な打ち手が見えやすくなります。
– 相互理解が深まる 自閉スペクトラムの対人困難を「当人だけの欠陥」と見なすのではなく、相互のズレとして捉える「ダブル・エンパシー問題」の枠組みは、双方の歩み寄りを促します。
「ちがい」を具体的に理解するヒント
– 感覚処理のちがい 音・光・触覚などへの過敏/鈍感。
Dunnの感覚プロファイルは「刺激をどれだけ求めるか/避けるか」の違いを整理します。
– 注意と実行機能 計画、切り替え、ワーキングメモリ、時間感覚の独特さ。
外部化(見える化)で補えることが多い領域です。
– 情報処理スタイル 具体-抽象、全体-細部、単一課題への強い集中(モノトロピズム)など。
興味のある対象には深い没入と高い持続性が生まれます。
– 社会的コミュニケーション 言葉の文字通りの理解、暗黙の了解のハードル、非言語手掛かりの読み取りの差。
明確さと可視化で橋渡しができます。
子どもへの伝え方(例)
– 「あなたの脳は音や光にとってもよく気づけるタイプ。
だからにぎやかな場所は大変なんだね。
静かな場所や耳を守る道具があるとやりやすくなるよ。
」
– 「一度にたくさん言われるより、順番に見えると進みやすい人なんだね。
やり方を一緒に見える形にしよう。
」
– 「人と話す時の合図は練習がいるスキル。
あなたが悪いわけじゃなくて、相手と合図を合わせる方法を一緒に探そう。
」
やさしい関わりの実践アイデア
– 安心とつながりを先に作る
– まず感情の承認。
「うるさかったね。
びっくりしたよね。
」と事実と感情を言語化。
– コ・レギュレーション(大人が落ち着きのリズムを示す) 声量・速度を落とし、短い文、待つ時間を確保。
– 環境調整で「参加しやすさ」を上げる
– 感覚の配慮 静かな席、ノイズ低減、保護具、眩しさ対策、触覚刺激の調整。
– 体のニーズ 動く休憩、感覚ツール(チェアバンド、フィジェット)を許容。
– 予測可能性を作る
– 1日の見通し、活動の「はじめ・なか・おわり」を視覚化。
– 移行前の予告と「今→次にすること」を短く提示。
– タイマーや砂時計で時間を可視化。
残り2分・30秒の合図。
– 伝え方を変える
– 指示は「一文一指示」で具体的に。
「プリントをAトレーに入れて、席に戻る」など。
– 視覚支援(絵・写真・チェックリスト・色分け)を併用。
理解確認は「言い換え」で。
– 待つ力を大人が用意。
即答を求めず、数十秒の処理時間を尊重。
– AAC(ジェスチャー、カード、タブレット等)の利用を肯定的に。
– 実行機能を外部化する
– タスクの分割と見える進捗。
できた所にチェックを入れる。
– 優先順位は3つ以内、ToDoは「今やる」に限定。
– 物の定位置を決め、色やラベルで検索コストを減らす。
– 興味と強みを活用する
– 好きな対象から学習へ橋渡し(電車が好きなら地図や算数に繋ぐ)。
– 得意な表現手段(絵・実物・プログラミング・模型)でアウトプットを選べるようにする。
– 自律性を支える関わり
– 選択肢を提示(AかBか、今か後でか)。
要求には理由を添える。
– 対立時は「低刺激アプローチ」。
指摘より提案、命令より合意形成。
Ross Greeneの「困っている子は困らせたいから困るのではない」を合言葉に、共同で解決案を作る。
– 感情と行動のケア
– メルトダウンと駄々は目的が違う。
メルトダウンは過負荷のサイン。
遮光・静音・人を減らす・圧迫しない・回復を待つ。
– 事後は「振り返りの再学習」より「関係修復」を先に。
短い共感→環境調整の見直し。
– クラスメイトへの理解づくり
– 「みんな違って、それでいい」を具体に。
感覚の違い、休憩の必要性、コミュニケーションの合わせ方を年齢相応に説明。
– 援助要請と支援の受け取り方をクラス全体のスキルとして教える。
– 保護者・学校との連携
– 合理的配慮(日本では法的義務)を前提に、困りが出る場面のABC(きっかけ・行動・結果)を共有し、先回り支援を設計。
– 支援計画は「環境」「タスク」「コミュニケーション」「感覚」「回復の手順」の5領域で書くと漏れが減ります。
やってはいけない落とし穴
– 「頑張ればできる」で我慢を強いる 短期的に静かになっても、長期的には不安・抑うつ・登校しぶりが増えます。
– 罰と比較で動かす 罰は回避学習を強め、関係を摩耗させます。
比較は自己否定を強化。
– マスキングを褒める 空気を読んで無理に同調する行動は、エネルギー消耗とメンタル不調に結びつきやすいと報告されています。
「あなたらしさ」を保った適応を目指す方が安全です。
具体的な声かけ例
– 行動を促す 「まずは3分だけやってみよう。
終わったら休憩しよう。
」
– 切り替え 「あと2分で片付け。
次は図工。
終わったら好きな本タイム。
」
– 感覚のケア 「今日は音が大きいね。
ヘッドホン使う?
別室に移る?」
– 失敗の受け止め 「うまくいかなかったね。
やり方を変えれば次はできるかも。
どこを変えようか一緒に考えよう。
」
根拠となる主な理論・研究(平易な要約付き)
– 神経多様性(Judy Singer, late 1990s) 神経機能の多様性は自然な人類の変異であり、価値があるという社会的概念。
– 社会モデル/ICF(WHO, 2001) 障害は個人の機能だけでなく、環境・社会の障壁との相互作用で生じる。
調整で参加が拡大する。
– ダブル・エンパシー問題(Damian Milton, 2012) 自閉者と非自閉者の相互理解のズレが誤解を生み、どちらか一方の欠陥ではない。
– モノトロピズム(Murray, Lesser, Lawson) 自閉特性にみられる興味の集中スタイル。
関心ベースの学習が効果的な根拠づけ。
– 感覚処理の枠組み(Winnie Dunn, 1997) 感覚刺激の閾値と自己調整のスタイルによる4象限モデル。
環境調整の指針となる。
– 視覚構造化・TEACCH(Mesibov & Shea, 2010 など) 時間・空間・タスクの視覚的構造化が予測可能性と自立性を高める。
– ユニバーサル・デザイン for Learning(Rose & Meyer, CAST) 提示・表現・関与の多様な手段を設計段階から組み込むと、学習参加が広がる。
– 自己決定理論(Deci & Ryan) 自律性・有能感・関係性が満たされると内発的動機が高まり、行動が持続する。
– コ・レギュレーションと生理的安全(Porgesのポリヴェーガル理論、Feldmanの共同調整研究) 大人の落ち着きと予測可能性が子の神経系の安定に寄与。
– マスキングのコスト(Hull et al., 2017; Lai et al., 2017 など) カモフラージュ行動は不安・抑うつ・疲弊と関連し、長期的に健康リスク。
– 協同的問題解決(Ross W. Greene) 行動の裏にある「できないスキル」に焦点を当て、合意形成で課題を解く枠組み。
懲罰より関係維持と機能的改善に資する。
日本の制度的背景
– 障害者差別解消法・改正により、学校・民間を含む合理的配慮の提供が義務化。
発達特性にも適用されます。
– 文部科学省はインクルーシブ教育システムの推進を掲げ、個々のニーズに応じた支援(特別支援教育のセンター的機能、通級指導、学級内支援等)を整備しています。
まとめ
– 発達特性を「困りごと」ではなく「ちがい」と捉えることは、ラベルの言い換えではなく、支援の土台を環境と関係に移す実践的な選択です。
違いを尊重し、強みを生かし、必要な配慮を前提にすることで、子どもは自分らしさを保ったまま学び、育つことができます。
– 合言葉は「人は合わない環境では困る」。
困っている子どもが「困った子」にならないよう、周囲の私たちが環境と関わり方を変える。
その小さな積み重ねが、子どもの現在と未来を支えます。
必要であれば、具体的な場面(授業中の立ち歩き、音への過敏、提出忘れ、集団活動の負担など)ごとの調整案も一緒に考えます。
いつでも状況を教えてください。
子どもが安心できる環境づくりは何から始めればいい?
安心できる環境づくりは「技」を増やす前に「土台(環境と関係)」を整えることから始めるのが最短距離です。
発達特性のある子どもに共通して効果が確認されているのは、予測可能性(見通し)、感覚刺激の調整、分かりやすいコミュニケーション、安心できる関係(コ・レギュレーション)、そして選択と自律性の保障です。
ここでは「まず何から始めるか」を順番と具体策で示し、あわせて根拠も紹介します。
まずの一歩(最初の1〜2週間にやること)
– 1. 観察と情報収集から始める
– 何に安心し、何が負担になるかは子どもごとに違います。
強み・関心(好きなもの、得意な活動)、しんどさ(音・光・におい・触覚などの過敏、集団・待つこと・切り替えの難しさ)、行動が崩れやすい場面(引き金)をメモします。
– ABC記録(A前後の状況、B行動、C結果)を数日つけると、環境で調整できるポイントが見えます。
– 家・園・学校・放課後など、関わる大人で情報を共有します。
予測可能性を可視化する(見通しを「見える化」)
1日の流れや活動のステップを、写真・絵・アイコンで示す「視覚スケジュール」を用意。
変化がある日は事前に差し替えや印をつけて知らせます。
活動の順番は「まず〜、それから〜」(First–Then)で示し、タイムタイマーや砂時計で時間の見える化もセットに。
ルーチンを固定化(朝の準備、片づけ、移動の手順は毎回同じ合図と順番)し、変えるときは予告します。
感覚環境を整える(負担を減らし、逃げ場を用意)
音 ざわざわが苦手なら、座席を騒音源から離す、扉や椅子にフェルト、ホワイトノイズ小音量、ノイズ低減ヘッドホンの許可。
光 蛍光灯のチラつき対策(拡散カバー)、間接照明、眩しい座席を避ける。
触覚・空間 座面クッションやフットレストで体を安定、パーソナルスペースを視覚マークで確保。
「静かに一息つける場所(クールダウンコーナー)」を常設し、入退室を自由に。
そこでできること(深呼吸、絵本、指先グッズなど)を用意。
伝え方を整える(短く・肯定形・視覚で)
指示は3ステップ以内、肯定形で具体的に。
「走らない」より「歩こう」「足はゆっくり」。
言葉+ジェスチャー+視覚カードで重ねて伝える。
処理時間を確保(5〜10秒待つ)。
選択肢で意思決定を支援(「Aにする?
Bにする?」)。
わからない時はモデル提示→一緒に→ひとりで、の順。
関係の安全基地づくり(コ・レギュレーション)
大人が落ち着いた声量・速度・表情で一貫して関わる。
困りごとを「困っているサイン」と捉え、まず安心を返す。
共感のことば(「びっくりしたね」「静かなところに行こう」)→安全確保→必要なら手順を一緒に、の順番。
成功や努力をすかさず具体的に称賛(「順番を待てたね。
助かったよ」)。
関係の貯金が安心を支えます。
期待(ルール)は少なく、練習できる形で
ルールは3つまで、ポジティブな文で可視化(例 「手はやさしく」「順番を待つ」「困ったら合図」)。
新しい場面は「予行練習」→「本番」→「振り返り」。
できたらすぐ強化子(称賛・休憩・好きな活動)で支える。
トランジション(切り替え)支援を標準装備
予告(5分→2分→30秒)、合図は毎回同じ。
移動先の写真・到着後の最初の活動を事前提示。
移動アイテム(小さな持ち物・カード)で安心感を持ち運べるように。
選択と自律性を尊重(コントロール感の保障)
方法・順番・場所など、できるだけ「選べる」場面を作る。
本人が決められたこと自体が安心につながります。
興味関心ベースの活動(ミニ図鑑、乗り物、ゲーム性など)を学びや生活の導入に使う。
チームで一貫性を持つ
家庭・学校・療育で合図、スケジュール、強化ルールをそろえる。
共有カードや連絡ノート、写真で揃えるとズレが減ります。
毎週1回、うまくいったこと・難しかったこと・次の調整を10分で確認。
具体例(家庭と学校)
– 朝の準備(家庭)
– 玄関に「出発チェックリスト(写真)」 1. 水筒 2. 連絡帳 3. 上着。
タイムタイマーを10分に設定。
完了ごとにマグネットを移動。
全部できたら玄関前で好きな曲を30秒。
– 集団活動(学校)
– 黒板に1時間の流れをアイコンで提示。
話す時は「見る→聞く→する」の3枚カードで合図。
音が苦手な子は教室後方・壁側で、必要時はヘッドホン可。
質問は指折り3つまでの「選べる質問カード」。
切り替えは「2分前カード」→ベル→「最初にすることカード」。
つまずきやすい時のリカバリー
– パニックの兆し(落ち着きがない、声が強くなる、視線が泳ぐ)が出たら、言葉数を減らし、安全・距離・静けさを優先。
「ここに一緒にいよう」「静かな場所に行こう」。
落ち着いた後に短く振り返り(事実のみ)と次の一歩(「次は合図カードを出そう」)。
なぜ効くのか(根拠)
– 予測可能性と視覚支援
– 自閉スペクトラムにおいて「不確実さへの耐性の低さ」が不安や行動の崩れと関連することが示されています。
見通しの明確化とルーチン化は不安低減に有効です(South et al., 2017; Wigham et al., 2015)。
– 視覚スケジュール、ソーシャルナラティブ、タスク分析、モデリング、強化などは、自閉スペクトラム児者へのエビデンスに基づく実践として体系的レビューで支持されています(NCAEP/NPDCの総説 Steinbrenner et al., 2020; Odom et al., 2010)。
NICEガイドラインも視覚支援や構造化を推奨しています(NICE CG170)。
– 明確な期待と前向きな強化
– 学校全体のポジティブ行動支援(PBIS)や教室経営技法は、問題行動の減少と学業・社会情動の指標改善をもたらすことがランダム化試験やレビューで示されています(Bradshaw et al., 2010; Simonsen et al., 2008)。
「肯定的で具体的な称賛」「ルールの明示」「練習機会」は中核要素です。
– 選択(自己決定)の効果
– 選択肢の提示は求められる行動の実行率を高め、問題行動を減らすことが行動分析の研究で繰り返し示されています(e.g., Shogren et al., 2004レビュー; Jolivette et al., 2002)。
– コ・レギュレーション(関係による落ち着き)
– 子どもは信頼する大人の落ち着いた関わりによってストレス反応が下がり、感情調整が促されます。
養育者の「社会的バッファリング」がコルチゾール低下に関連することが報告されています(Hostinar, Sullivan, & Gunnar, 2014)。
発達特性の有無に関わらず、情動の言語化と共感、段階的支援(スキャフォルディング)は実行機能と自己調整を高めます。
– 感覚環境の調整
– 感覚過敏・鈍麻への環境調整(音・光・触覚の調整、逃げ場の用意)は作業療法の実践ガイドラインで推奨され、個別化された感覚統合理論に基づく介入は一部の研究で機能・参加の改善が示されています(Schaaf et al., 2014)。
効果は個人差が大きいため、本人の反応を見ながら調整することが重要です(AOTA, 2020)。
– ADHDに対する構造化と教室介入
– ADHDの子どもには、明確なルール、短い課題、視覚手掛かり、こまめなフィードバックなどの教室ベースの行動介入が有効であることがメタ分析で示され、ガイドラインでも第一次選択として推奨されています(AAP, 2019; Evans et al., 2018; DuPaul & Weyandt, 2011)。
– 家庭・学校の一貫性
– 保護者トレーニングや親主導の介入は、子どもの行動と親のストレス双方に効果があり(AAP, 2020; NICE CG170)、場面間で合図や手順をそろえることが般化(習得したスキルを他場面に広げる)を促進します。
導入時のチェックリスト
– 見通し 今日のスケジュールが見える/変化の予告がある
– 感覚 音・光・座席が合っている/静かな逃げ場がある
– 伝え方 短く・肯定形・視覚で/待つ時間を確保
– 関係 共感の言葉と安心の反応が先/成功を具体的にほめる
– 切り替え 予告・合図・最初の一手が用意されている
– 自律性 選べる場面が毎日いくつかある
– 一貫性 家・園校・療育で合図と手順がそろっている
– 観察 ABC記録や振り返りで毎週小さく改善
最後に
安心は「結果」ではなく「設計」です。
完璧にやろうとせず、1つずつ導入し、子どもの反応を見て微調整してください。
子どもが自分で「できた」と感じる機会が積み重なるほど、安心の土台は太くなります。
参考・根拠
– National Institute for Health and Care Excellence (NICE). Autism spectrum disorder in under 19s support and management (CG170), 2013.
– Steinbrenner, J. R., et al. Evidence-Based Practices for Children, Youth, and Young Adults with Autism. NCAEP Report, 2020.
– Odom, S. L., et al. Evidence-based practices in interventions for children and youth with ASD. Preventing School Failure, 2010.
– South, M., et al. Intolerance of Uncertainty and anxiety in autism. Journal of Autism and Developmental Disorders, 2017.
– Wigham, S., et al. Systematic review of anxiety in autism and intolerance of uncertainty. Research in Autism Spectrum Disorders, 2015.
– Bradshaw, C. P., et al. Multisite RCT of PBIS. Pediatrics, 2010.
– Simonsen, B., et al. Critical features of classroom management. Education and Treatment of Children, 2008.
– Hostinar, C. E., Sullivan, R. M., & Gunnar, M. R. Psychobiological mechanisms of social buffering. Current Directions in Psychological Science, 2014.
– Schaaf, R. C., et al. RCT of occupational therapy using Ayres Sensory Integration. Journal of Autism and Developmental Disorders, 2014.
– American Academy of Pediatrics (AAP). ADHD Clinical Practice Guideline, 2019.
– American Academy of Pediatrics (AAP). Identification, Evaluation, and Management of Children with ASD, 2020.
– Evans, S. W., et al. Evidence review of psychosocial treatments for school-age ADHD. Journal of Clinical Child & Adolescent Psychology, 2018.
– DuPaul, G. J., & Weyandt, L. L. School-based intervention for ADHD. Journal of School Psychology, 2011.
– American Occupational Therapy Association (AOTA). Occupational Therapy Practice Guidelines for Children and Youth, 2020.
– Jolivette, K., et al. Effects of choice-making on problem behavior. Journal of Behavioral Education, 2002.
– Shogren, K. A., et al. Promoting self-determination in students with disabilities. Theory Into Practice, 2004.
必要であれば、お子さんの状況に合わせた「視覚スケジュール雛形」や「教室・家庭用チェックリスト」を一緒に作成します。
伝わりやすい声かけや視覚支援・選択肢の出し方のコツは?
ご相談ありがとうございます。
発達特性(ASD、ADHD、学習障害、言語の遅れなど)のある子どもに「伝わりやすく、安心して動ける」関わりをつくるカギは、(1)言語情報をシンプル・具体・前向きにする、(2)視覚で見通しと選択を示す、(3)実行機能や感覚の特性に合わせて環境と手順を整える、の3点です。
以下に、声かけのコツ、視覚支援、選択肢の出し方を具体例とともに解説し、最後に根拠・エビデンスの概略をまとめます。
伝わりやすい声かけのコツ
– 先に「何を」「どこで」「いつまで」 曖昧さを避け、行動のゴールを一文で。
例)「今は片づけの時間です。
ブロックを箱に入れてください。
タイマーが鳴ったらおわりです。
」
– 肯定文で「してほしい行動」を言う やめてほしい行動の否定形より、具体的な代替行動を。
例)「走らないで」→「廊下はゆっくり歩こう」
– 一度に一つ、短く 作業記憶の負荷を下げます。
二つ以上は番号や順番語で区切る。
例)「1. 名前を書く、2. 表紙を色ぬり」
– 視線・合図で注意を合わせてから話す 子どもの名前を呼び、合図(合図カード/身振り)→短く伝える→理解確認。
– 待つ(処理時間の確保) 5~10秒は沈黙を保ち、子どもの反応を待つ。
繰り返しの催促は最小限に。
– モデリング(見本)とジェスチャーを併用 口頭だけでなく、身振り・指さし・完成見本で示す。
– 見通しと選択を一緒に 嫌いな課題にも「先-後(First-Then)」でモチベーションを付与。
例)「ワーク3問→終わったら絵本を選べる」
– ラベリング賞賛 できた行動を具体語でフィードバック。
例)「自分から始められたね」「順番を守れたね」
– 事前合図(プレコレクション) 起こる前に期待を伝える。
例)「このあと片づけのベルが鳴るよ。
ベルが鳴ったら机の上を空っぽにしよう」
– 言い換えテクニック 拒否が出たら、選択肢提示や時間調整に切り替える。
例)「今は無理」→「OK、3分タイマーのあとにやろう。
先にどちらからする?」
視覚支援のコツ(見える化で安心・自立)
– 1日の視覚スケジュール 写真・絵カード・文字でその日の流れを左から右、上から下に配置。
終わったら裏返す/外す。
ポイント 朝のうちに共有、変更があるときは変更カードで事前に示す。
– Now-Next(いま-つぎ)・First-Thenボード 活動の切り替えが苦手な子に特に有効。
– タイマーの可視化 Time Timerや砂時計、カウントダウンアプリで「時間の量」を見せる。
終了前の予告(例 残り2分で黄色、残り30秒で赤)。
– 手順カード・チェックリスト 身支度、歯みがき、持ち物準備などを写真やイラストで並べる。
完了チェックで達成感。
– 完成見本・作業の分割 最終形の写真と、1ステップずつの材料トレーを用意。
1課題は5~10分で区切る。
– 規則・ルールの掲示 やってほしい行動を肯定形で3つ以内。
例)「1. 手はやさしく 2. 口は小さな声 3. 足は歩く」
– 選択ボード 活動やごほうび、休憩方法の候補を視覚化(アイコン/写真)。
指差しで選べるように。
– 感情・自己調整ツール 気持ち温度計、ゾーン(青/緑/黄/赤)、「ヘルプカード」「やすみカード」。
休憩場所を写真で示す。
– 空間の境界線 カーペットやテープで「ここでやる」範囲を見える化。
物はラベル付きの定位置へ。
– 強化の見える化 トークンやスタンプカードは条件を明確に(例 「席について5分作業=★1個。
★5個で○○」)。
選択肢の出し方(自律性を守り、やる気と落ち着きを引き出す)
– 「構造化された選択」を基本に 何をするかは大人が枠組みを決め、その中で子どもがコントロールできる部分を選ぶ。
例)何をするか→大人、どちらから/どの道具で/どの場所で→子ども
– 選択肢は2~3つまで、どれでもOKな選択に 偽物の選択は信頼を損ないます。
– はい/いいえより強制二択 やる/やらないではなく「今やる/3分後にやる」「鉛筆/シャープ」「音読/計算どちら先?」
– 視覚で選ばせる 写真・カード・実物提示。
言語負荷を下げ、迷いを減らす。
– 時間や順序の選択 開始時刻、順番、休憩タイミングを選ばせると見通しが安定。
– プレマック原理の活用(先にA→その後B) 好みの活動を「あと」に配置し、やる気を引き出す。
例)「プリント3問→ブロック5分」
– 断りやすさの用意 「やすみカード」「ヘルプカード」で適切な拒否や支援要請の方法を先に教える。
– 交渉の終点を明示 選択は1回、変更は1回まで等のルールを最初に共有。
実行機能・感覚特性に合わせた環境と手順
– 刺激の最小化 視界に入る物を減らし、机上は必要物のみ。
指示の紙は白地に大きめフォント、行間を広く。
– チャンク化と見通し 大きな課題は小分けに。
各チャンクにタイマーとトークン。
達成記録で自己効力感を高める。
– 開始の合図(スターター)を決める ベル、音楽、視覚合図で「始める」を習慣化。
– トランジション支援 終了合図→片づけ手順カード→移動カード→到着先の期待行動カード。
– 感覚調整 静かなコーナー、ノイズキャンセリング、耳栓、視覚遮蔽、ムーブメントブレイク(重い物運び、ストレッチ)を計画的に。
– 一貫性と一般化 家庭・学校で同じ合図、同じ言葉、同じカード。
小さな成功を繰り返して他場面へ広げる。
よくあるつまずきと対策
– 言葉が長い/抽象的 → 5~10語/1指示、具体語・動詞で。
– 繰り返しの催促 → 待つ→視覚に切り替え→選択肢提示の順で支援。
– 予定変更の唐突さ → 変更カードと事前告知、代替の楽しみをセットで。
– 視覚の盛り込み過ぎ → 必要最小限から開始、定着後に段階的に拡張。
– 賞賛が一般的すぎる → 行動名を入れて即時に。
「静かに待てたね。
タイマーまであと1分!」
– 偽の選択肢 → 提示前に「どれでもOKか」を大人側で確認。
具体的な声かけ例(場面別)
– 切り替え 「あと2分でおわり。
タイマーが赤になったら片づけ。
片づけたら、次は絵本コーナー。
」
– 学習開始 「まず名前を書く。
次に1番を読む。
ここにチェック入れる。
」
– 行動置き換え 「叩きたくなったら、このクッションを押す。
手はやさしく。
」
– 拒否が出たとき 「わかった。
3分休憩のあと、2問だけやろう。
先に読む?
書く?」
– 集団場面 「今は先生の話を見る時間。
目は先生、手は机、足は床。
」
根拠・エビデンスの概要
– 視覚支援(スケジュール、手順カード、First-Then、タイマー)
自閉スペクトラム症支援の国際的実践(TEACCHの構造化・視覚化)や、米国のエビデンス一覧であるNPDC(National Professional Development Center on ASD)、NAC(National Autism Center)のスタンダード報告で、視覚スケジュール、タスク分析、ソーシャルナラティブ、先行事象ベース介入、強化、プロンプトなどが有効とされています。
視覚情報は一過性でないため、作業記憶や処理速度の弱さを補い、予測可能性を高めるという理論的根拠があります(認知負荷理論、マルチメディア学習の知見)。
– 自然主義発達行動介入(NDBI)
PRTやESDMなどのNDBIは、子どもの関心、選択、強化を活用してコミュニケーションと行動を伸ばすエビデンスがあり、系統的レビューで有効性が示されています(Schreibmanらによる総説など)。
日常場面での短いトライアル、選択肢提示、即時強化はその中核手続きです。
– PECS・AAC
絵カード交換式コミュニケーション(PECS)を含むAACは、発話が少ない子の自発的コミュニケーションを増やす効果が複数研究で示されています。
視覚選択やFirst-Thenと組み合わせると自己表出が増え、問題行動の機能的代替にもなります。
– 選択の提供(Choice-making)
選択肢の提示は、課題回避や反抗の減少、課題従事時間の増加に寄与する「先行事象ベース介入」として、応用行動分析(ABA)の研究で一貫して支持されています。
選択は自律性や統制感を高め、モチベーションを向上させる(自己決定理論)ことも心理学的に示唆されています。
– プレマック原理(First-Then)
「より好ましい活動が、より望ましくない活動の強化子となる」という原理に基づき、先に課題→後に好子を置くと実行率が上がることが行動分析で確立しています。
First-Thenボードはこの原理の視覚化です。
– 待つ・処理時間
教育心理の「ウェイトタイム」の研究は、応答の質と量が待機時間で改善することを示しており、ASDや言語の特性がある子においても処理時間の確保が反応の安定化に有効と報告されています。
– 行動的教室マネジメント(トークン、明確なルール、具体的賞賛)
ADHDを含む子どもの課題行動に対して、明確な期待、即時かつ具体的な正の強化、トークン・エコノミー等の行動的マネジメントは効果が高いとするメタ分析・ガイドライン(例 学校ベースの行動支援に関するレビュー)が多数あります。
– ガイドライン
英国NICEガイドライン(自閉症 19歳未満)や米国小児科学会(AAP)のガイドラインは、親指導や行動・発達的アプローチ、視覚支援・構造化、学校での合理的配慮の重要性を示しています。
日本でも文部科学省の特別支援教育資料で、見通しの提示や視覚的手がかり、環境調整の重要性が繰り返し示されています。
導入と継続のポイント
– 小さく始めて、成功体験を積み重ねる(Now-Next→日課全体のスケジュールへ)。
– 子どもと一緒に作る(好きなキャラ・色、本人の言葉を取り入れる)。
– 家庭と学校で言葉・カード・ルールを共有し、一貫性を確保。
– 週1回は見直し、データ(うまくいった時間帯、成功数)で調整。
– うまくいかないときは、要求が難しすぎないか、強化が十分か、見通しが曖昧でないかをチェック。
最後に
「よく伝わる声かけ」「見える化」「選択の自由」は、それぞれ単体でも有効ですが、3つを組み合わせることで相乗効果が生まれます。
子どもが「わかる・選べる・できた」と感じられる設定づくりが、安心と自信、行動の安定につながります。
お子さんの特性や年齢、場面に合わせて、上記の中から1~2個を試し、うまくいったら少しずつ広げてみてください。
必要に応じて学校の特別支援コーディネーターや地域の療育専門職(言語聴覚士、作業療法士、公認心理師など)と連携すると、より個別化が進みます。
困った行動が起きたとき、罰ではなく支援でどう対応すればいい?
「困った行動」を“罰で止める”のではなく“支援で減らす・置き換える”ことは、発達特性のある子どもの安心と学びを守るためにとても有効です。
ポイントは、行動は意思や性格ではなく「困りごとを伝えるサイン」であり、技術(スキル)と環境で改善できる、という見方です。
以下に、考え方の土台、実践の手順、具体例、そして根拠となる研究・ガイドラインをまとめます。
基本の考え方
– 子どもは「できるならうまくやる」。
問題は“やる気”ではなく“できる力”や“環境の合わなさ”にあることが多い(GreeneのCPS理論)。
– 罰は短期的には止まったように見えても、根本の困りごと(感覚過敏、実行機能の弱さ、言語表出の難しさ、予測不能さへの不安など)を解決せず、恥や恐怖、回避を強めます。
– 支援は「予防・環境調整」「代替スキルの教授」「望ましい行動の強化」「回復的な関わり」の4本柱で考えます。
罰ではなく支援で対応するためのステップ
A. 起きた瞬間の優先順位(安全と共調整)
– 安全確保。
危険物を除き、周囲を静かに、光・音・人の刺激を減らす。
大人の声は低くゆっくり、短い肯定文で。
– 共感と短い言葉。
「びっくりしたね」「今はしんどいね」「安全にしよう」。
説教や問い詰めは後。
身体接触は本人が好む場合のみ。
– タイムアウトではなくタイムイン。
離すより“そばで伴走”。
安心が戻るまで待つ。
B. 事後の理解(ABCで原因を探る)
– ABC記録を簡単に取る
A(先行) 直前に何があった?
(音、におい、要求、移行、空腹、疲れ)
B(行動) 具体的に何をした?
C(結果) 周囲の反応は?
何が起きなくなった/起きた?
– 行動の機能を仮説立て(1)逃避・回避(難しさ/苦痛から離れたい)(2)注目・つながり(見てほしい)(3)もの・活動へのアクセス(欲しい)(4)感覚調整(刺激を求める/避ける)。
– 責めずに「何が難しかった?」を一緒に見立てる(描画やカード、スケールなど視覚支援を活用)。
C. 予防と環境調整(起こりにくい場を作る)
– 予測可能性 一日の見通し、視覚スケジュール、移行の予告(あと5分、3分、1分)、ファースト・ゼン(まず〇〇→それから△△)。
– 課題調整 量を小分け、選択肢を用意、易しい→やや難しいの順、モデル提示、チェックリスト、タイマー、ボディダブル(隣で一緒に)。
– 感覚の配慮 静かな場所、ノイズキャンセリング、遮光、席の配置、センサリーツール(咀嚼、フィジェット、深圧)、動く休憩の定期化。
– 待ち時間と要求密度の調整 長い待ち・抽象的な指示を避け、具体・単文指示へ。
D. 代替スキルの教授(行動の置き換え)
– 機能が同じで安全・社会的に望ましい行動を教える(機能的コミュニケーション 例「やすみたい」「助けて」「あとで」「静かにして」)。
– 言語が難しい子にはカード/ジェスチャー/ボタン/AAC。
ブレイクカードは強力。
– 感情調整スキル 体のサインに気づく、深呼吸、壁押し、テント・毛布、退出の合図。
– 実行機能の支援 始め方・続け方・終わり方を分かる形で提示(手順書、視覚手がかり、色分け)。
– リハーサル 落ち着いている時に短時間で、ロールプレイと成功体験を積む。
E. 強化(うまくいったら即フィードバック)
– 具体的称賛の頻度高めに。
「静かに手を挙げられたね」「休みたいと言えたね」。
– 差別強化(DRA/DRI) 望ましい代替行動を選んで強く褒め/アクセスを与え、問題行動は最小限の反応に。
– 非随伴アテンション(NCR) 困った行動が出る前に定期的にポジティブ注目を配る。
– トークン等は“人との関係・達成感”とセットに。
過度な操作的管理にならないよう短期・簡潔・本人の選好に沿って。
F. 結果の整理は「自然・論理的な結果」で
– 罰(怒鳴る、脅す、恥をかかせる、取り上げる)ではなく、意味の通る結果にする。
例)壁に描いた→一緒に拭く。
物が壊れた→安全を確かめ修理・片付けを一緒に。
– 被害がある場合は修復的対話。
相手の気持ちに触れ、どう埋め合わせるかを一緒に考える。
強制的な謝罪や公開反省は避ける。
G. 再接続と共同解決(CPS)
– 共感→大人の懸念→両者の案出し(Plan B)。
短く具体的に、両者のニーズを満たす第三案を探す。
よくある状況への具体策
– メルトダウン(過負荷反応) 要求は一旦停止、刺激遮断、安全確保、最少の言葉で待つ。
終息後に環境調整とスキルトレ。
– 注目が機能 困った行動を最小限反応にし、代わりの注目引き行動(呼ぶ、タッチ、カード)を即強化。
予防的に1対1の時間をこまめに。
– 逃避が機能 難易度を下げ、小ステップと休憩、ブレイク要求を教える。
徐々に課題耐性を形成。
– モノ/活動のアクセス ファースト・ゼン、選択肢と待つ練習。
短い待機から始め、タイマーやトークンで見える化。
– 感覚が機能 刺激の置換(安全なスティミングは尊重)、環境を調整。
感覚を止めるのではなく整える。
言葉かけの例
– 観察+共感 「音が大きかったね。
びっくりしたね」
– 選択肢 「席、ここかあっち、どっちがいい?」
– 代替行動のガイド 「休みたいときはカードを見せてね。
見えたらすぐ休めるよ」
– 称賛 「助けてって言えたの、すごくよかった。
だからすぐ手伝えたよ」
データとチームでの一貫性
– いつ・どこで・何の前後で起きるかを簡単に記録。
仮説と支援を2~3週間試し、変化を確認。
– 家庭と学校で合意したシンプルな合言葉・合図・視覚支援を共有し、一貫して使う。
罰を避ける理由とエビデンス(根拠)
– 体罰・厳罰の害
– 米国小児科学会(AAP, 2018)は体罰が攻撃性増加、精神的健康の悪化、親子関係の悪化に関連し、推奨されないと声明。
– メタ分析(Gershoff & Grogan-Kaylor, 2016)でも、叩くことは望ましい行動改善に結びつかず、反社会的行動や精神的問題の増加と関連。
– 日本でも2019年の児童虐待防止法等改正で保護者の体罰は禁止。
つまり法・学術の両面でノー。
– ポジティブ行動支援(PBS/PBIS)の有効性
– 学校全体でのPBISは無作為化研究で懲戒の減少、学級風土の改善、児童の行動問題の減少に効果(例 Bradshawらの研究)。
– 機能に基づく支援(FBAに基づく介入)が最も効果的という系統的レビューが多数(Cook et al., 2012 など)。
– 機能的コミュニケーション訓練(FCT)
– 問題行動の機能を満たす「伝え方」を教える介入で、強い効果が確認されているレビュー(Tiger, Hanley, Bruzek, 2008)。
– 発達特性に関するエビデンス実践
– 自閉スペクトラム症に対して、視覚支援、社会的ナラティブ、強化、手続き化、FBA等はエビデンスあり(National Professional Development Center on ASD, 2020; National Autism Center Standards Project)。
– 行動障害と知的障害に対するガイドライン
– NICE(英国)ガイドラインNG11は、罰的アプローチではなくポジティブ行動支援(PBS)、環境調整、家族・スタッフ教育を推奨。
– 排除的懲戒の弊害
– 特別な支援を要する子どもは排除的懲戒の影響を受けやすく、学業・メンタルヘルス・非行リスクが悪化することが報告されており、支持的学級経営が推奨。
よくある誤解への補足
– 「甘やかし」ではない 支援は“要求を下げる”のではなく、“できるようにする土台”を整える。
期待は保ちつつ、段階的に伸ばす。
– 「無視だけ」は危険 注目機能の行動に計画的無反応を使う場合も、必ず代替行動の強化と予防的なポジティブ注目をセットに。
– 「タイムアウト」は慎重に 罰として孤立させると関係が損なわれやすい。
クールダウンは“そばで支える(タイムイン)”を基本に。
生活全体を見直す
– 睡眠、栄養、服薬、体調、通学通園の負荷、人間関係。
基盤の乱れは行動に直結。
必要に応じて医療・発達支援の専門家と連携。
– 大人のセルフケアも介入の一部。
大人が落ち着いているほど、子どもは落ち着きを取り戻しやすい。
すぐに始められるミニチェックリスト
– 今日の見通しを“見える化”したか
– 予告して移行したか(あと5分/1分)
– 小さな成功に名前をつけて褒めたか
– ブレイクカードや助けを求める手段を用意したか
– 刺激を減らせる“退避場所・物”があるか
– ABCを1件メモしたか
まとめ
罰は“止める”が、支援は“育てる”。
行動の裏には必ず理由があり、環境調整と代替スキルで「困った行動」を「伝えられる行動」に置き換えられます。
予防・共感・教える・強化する・修復する、の循環をチームで回し、データで振り返りながら調整していきましょう。
それが子どもの尊厳を守り、安心と学びを最大化する最短ルートです。
家庭・園・学校・専門家と連携しつつ、保護者が無理なく続けるには?
発達特性のある子どもへのやさしい関わり方は、「子どもに合う環境と関わり方を整え、チームで続けること」が核になります。
ここでいう発達特性には、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)、発達性協調運動症(DCD)など、認知や感覚、注意の働き方の違いが含まれます。
大切なのは「子どもを変える」より「環境と大人の関わりを調整する」こと。
そして家庭・園・学校・専門家が同じ方向を向き、保護者が無理なく続けられる仕組みにすることです。
連携の土台づくり(家庭・園・学校・専門家の共通基盤)
– 目的の共有 「子どもが安心して生活・学び、強みを活かして成長できること」を共通ゴールに据えます。
– 1ページプロフィールを作る 強み(得意・好き)、苦手(避けたい感覚・状況)、落ち着く方法(深呼吸、静かな場所など)、うまくいく声かけ、避けたい言い方、トリガー(例 音、急な予定変更)を1枚に。
新年度の引継ぎや会議で活用します。
– 小さな優先ゴールを1〜2個に絞る 例「朝の身支度の着手」「授業での離席を1回以内」。
優先順位を明確にし、他は「後回しにする勇気」をチームで合意します。
– 連絡の窓口・頻度を決める 園・学校の特別支援コーディネーターや担任、家庭の主担当、専門家(発達外来・心理・OT/STなど)の役割を明確に。
週1の簡潔な近況共有、月1の振り返り、学期ごとの見直し会議が続けやすいです。
– 共通言語を持つ 「行動はコミュニケーション」「予防>対応」「見える化」「先に安心」を合言葉にします。
家庭で無理なく続ける関わり(負担を減らして効果を出すコツ)
– 環境調整で7割決まる
– ルーティンの見える化 朝・帰宅後・就寝前の流れを3〜5枚のカードやチェックリストに。
タイマー(視覚カウントダウン)を併用。
– 先-後(First-Then) 先にやること1つ→楽しみ(動画5分、遊びなど)をセット。
「先にハミガキ、そしたら絵本」。
– 物理的な工夫 準備物を一か所にまとめる「身支度ステーション」、ラベル貼り、ノイズ対策、座席の固定化、視界の刺激を減らす。
– 感覚ニーズの配慮 タグのない服、イヤーマフ、ムーブメントブレイク(30〜90秒の体動)を定期的に。
– 予防が最良の介入
– ハイフリクション場面(朝の切り替え、宿題、お風呂)に先回りの予告と選択肢を。
例「あと5分でお風呂。
泡かシャワー、どっちにする?」。
– 行動のモメンタム(簡単→難しい) 成功しやすい2〜3タスクから着手し、波に乗ってから難しい1つへ。
– 伝わる声かけ
– 短く1件ずつ、肯定形で具体的に。
「走らないで」より「ゆっくり歩こう」。
– 待つ力 指示後5〜10秒は口を挟まず待つ。
視覚支援や指差しを併用。
– 困った時の対応(低刺激・安全・共感)
– まず安全確保→言葉は少なく→落ち着く選択肢を提示。
「今はしんどいね。
静か・ブランケット・お水、どれにする?」。
収束後に短く振り返りと次の一手。
– 強化は小さく頻繁に
– できた瞬間の具体的称賛が最強。
「時間どおりに始められたね」「手を挙げられたの見たよ」。
ポイントやトークンは短期で交換できるように。
– 記録は15秒で
– 連絡帳やメモは「良かった1つ/困った1つ/次の一手」を一行ずつ。
続く記録だけが役に立ちます。
– 親のセルフケアを計画に組み込む
– 休む時間を先にカレンダーに確保。
家事の省力化、家族・友人・地域の応援リスト、レスパイトの情報収集。
親のストレス軽減は子の行動改善に直結します(親向けACTやマインドフルネスはストレス軽減に有効という研究があります)。
園・学校との連携を具体化する
– 合理的配慮の合意
– 例 席の配慮(前方・壁際)、視覚タイマー・スケジュール、先に予告、休憩カード、提出期限の柔軟化、評価方法の多様化(口頭・実技)、音・光の調整、グループ分けの配慮、移動前の事前リハーサル。
– 新年度・行事前は「予告→練習→当日サポート→振り返り」をセットで。
– 連絡帳/アプリの書き方
– 事実の記述(時間・状況)→トリガーや前兆→うまくいった支援→翌日のお願い。
評価や憶測は避け、観察事実を共有。
– 校内資源の活用
– 特別支援コーディネーター、通級による指導、特別支援学級、支援員、スクールカウンセラー・ソーシャルワーカーとの連携会議を定期化。
– ピア支援と学級づくり
– ルールの明確化、視覚提示、ロールプレイ。
ピア・バディの仕組みと、からかい・いじめの早期予防。
専門家とのチームアップ
– 相談先
– 医療 発達外来・小児精神科・小児科。
– 心理 臨床心理士・公認心理師(評価・親支援・SST)。
– リハ 作業療法士(感覚・実行機能・日常スキル)、言語聴覚士(言語・コミュニケーション)。
– 地域 発達障害者支援センター、こども家庭センター、児童発達支援・放課後等デイ。
– 受診・面談の準備
– 気になる場面の動画、ABC(先行条件・行動・結果)メモ、強みリスト、優先ゴール、試した支援と反応。
専門家が支援計画に落とし込みやすくなります。
– 依頼したいこと
– 家庭でできる具体ステップと頻度、優先順位、効果判定の指標(回数、所要時間、成功率など)、園・学校宛の短いサマリー文書。
情報共有の同意手続きも最初に。
続けやすい仕組み化(3カ月サイクルの例)
– 0〜2週 ベースラインを取る(目標行動の現在値を把握。
例 宿題の着手まで平均12分)
– 3〜10週 先行介入+強化を実施(視覚スケジュール、First-Then、簡単タスクから、5分ごとのトークン)
– 11〜12週 振り返り(グラフ化し、うまくいった支援を標準化。
うまくいかない時間帯は次期の重点に)
– 1日の支援時間は合計10分以内、既存習慣に「くっつける」(歯磨き後にカード提示、帰宅直後に5分のムーブメントなど)。
家族全員が同じ言い回しを使うと効果が高まります。
代表的な根拠(エビデンス・制度)
– 親向けトレーニングの有効性
– ADHDや行動問題に対する親トレは国際的ガイドラインで第一選択(AAP ADHDガイドライン、NICE)。
ASDの問題行動に対しても、親トレは教育のみより有効(Bearssら, JAMA 2015)。
– 親子相互作用療法(PCIT)、Incredible Years、Triple Pなどのプログラムは行動改善と親のストレス軽減に効果が示されています(複数のメタ解析)。
– 先行介入と視覚支援
– 視覚スケジュール、タイマー、タスク分析、強化、プロンプトなどはASD児に対する実証済み実践として整理されています(National Professional Development Center on ASD, Wongら 2015)。
視覚スケジュールは移行の混乱を減らす研究報告があります。
– 家庭-学校の協働
– Conjoint Behavioral Consultation(家庭と学校の合同行動コンサルテーション)は学業・行動の改善に有効というエビデンスがあり、場面間で方略を一般化させます(Sheridanらの研究)。
– 親のストレス介入
– 親向けマインドフルネスやACTは、ストレス・抑うつ・育児自己効力感の改善に有効とする系統的レビューがあります(Whittinghamら 2016 など)。
親のウェルビーイングは子の行動アウトカムに影響します。
– 睡眠の行動療法
– 就寝ルーティン、消灯前の刺激制限、段階的消去などの行動的睡眠介入は、ASD児を含む子どもの睡眠改善に有効(複数のレビュー)。
– 制度・政策(日本)
– 障害者差別解消法(2024年改正)により、学校等に合理的配慮の提供が義務化。
– 文部科学省は「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」の策定と校内委員会での支援を推奨。
通級による指導の整備、合理的配慮の具体例集も公表。
– 厚生労働省は児童発達支援・放課後等デイサービスのガイドライン整備、発達障害者支援センターの設置。
よくあるつまずきと回避策
– 目標を多くしすぎる→最優先1〜2個だけに絞る
– 方針が頻繁に変わる→3カ月は同じ枠組みで実施し、データで判断
– 罰に依存する→予防・見える化・強化を先に。
罰は学習を止めやすい
– 記録が重い→一行記録で十分。
週1で写真やグラフに
– 親が孤立する→家族会やピアサポート、支援センターに早めに相談
具体例(朝の身支度)
– 目標 登園準備の着手を声かけ1回で開始
– 環境 身支度ボード(起床→トイレ→着替え→朝食→歯磨き→カバン)、各工程の箱を一列に配置
– 方略 起床10分前のやさしい予告、First-Then(着替え→朝食)、タイマー5分、完了でシール→登園前に好きな曲1曲
– 困った時 選択肢提示(先にズボン/シャツ)、ムーブメント30秒、共感の一言と再提示
– 振り返り 週1で成功回数を数え、工程を1個ずつ独立させる
最後に
– 子どもは「できない」のではなく「今はまだ難しい」だけ。
安心と予測可能性、強みの活用、見える化、先回りの工夫が土台です。
– 家庭・園・学校・専門家が同じ言葉と小さなゴールでつながると、支援は格段に楽になります。
– 親が無理なく続けるために、支援は「小さく、具体的に、習慣にくっつける」。
うまくいったら褒めるのは子どもだけでなく、親自身にも。
参考・根拠の例(日本語でアクセスしやすいもの)
– AAP(米国小児科学会)ADHD診療ガイドライン 就学前は親トレが第一選択
– NICEガイドライン(英国)ADHD・自閉症支援 親支援と環境調整を推奨
– Bearss, K. et al. (2015). Parent Training for Disruptive Behavior in Children with ASD. JAMA
– Wong, C. et al. (2015). Evidence-Based Practices for Children and Youth With ASD(NPDCの総説)
– Sheridan, S. et al. Conjoint Behavioral Consultationの効果研究
– Whittingham, K. et al. (2016). 親向けACT/マインドフルネスのレビュー
– 文部科学省「特別支援教育の手引」「個別の教育支援計画の手引」「合理的配慮の具体例集」
– 障害者差別解消法(2024年改正)合理的配慮の義務化
必要であれば、お子さんの年齢・具体的な困り場面(例 宿題、友だち関係、給食、行事)に合わせて、今日から使える個別の支援プラン(1ページプロフィールと90日計画)をご一緒に作成します。
【要約】
発達特性を不足でなく多様な「ちがい」と捉え、環境とのミスマッチを調整する視点(ICF・神経多様性)へ。利点は自己肯定感の保護、実用的支援、相互理解。感覚・実行機能・情報処理・社会的コミュニケーションの差を踏まえ、共感的な承認、環境調整、予測可能性の可視化、具体的指示と視覚支援、実行機能の外部化、興味と強みの活用で参加を促す。